この素晴らしきひと夏の恋と空戦の物語、『とある飛空士への追憶』

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『とある飛空士への追憶』 犬村小六 ガガガ文庫

読み終えたこのオレの心を占めるこの感情は知っている。ああ、これはまさに初恋をした時の切なさ──。

「貴様にひとつ、重大な任務を託したい」
「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ──」

海をはさんだ大国同士が戦争を繰り広げる架空戦記。そこに登場するレヴァーム皇国の次期皇妃ファナを複座式水上偵察機に乗せ、単機で1万2千キロの距離の海を越え祖国に送り届ける使命を帯びた飛空士のシャルル。身分的に最下層に位置するシャルルと次期王妃のファナ。身分違いのこの2人が同じ飛行機に乗り、敵制空権内を単機で突破する冒険譚、そしてラブロマンスなのです。

この物語、まずはそのシンプルで王道的な流れがとにかく素晴らしいです。次期王妃のファナを飛行機に乗せ送り届けるまでを描いた物語なのですが、その過程は気持ちいいくらいに王道。敵のまっただ中を次期王妃を連れて駆け抜けていくというだけで少年心をくすぐる冒険モノとしてオレのドキワク感は最高潮に達しますし、それを成し遂げるという英雄譚としても激しく心躍ります。そして敵機に追われ危機的状況に陥りながらも何度となく助かっていく展開には何度となくハラハラさせられ、そしてドキドキさせられました。

撃墜しあうみたいな派手なドッグファイトはなく、ファナを送り届けるという使命のためにただひたすらに敵機の追撃を振り切ることに特化した展開なのですが、これがまた臨場感溢れる筆致により、読み手である自分も何度となく手に汗握らされました。最後に待ち受けている因縁の敵機との1対1の決戦。その何と熱く潔く昂ぶる空戦であろうかと!

この物語における空戦描写の素晴らしさは特筆モノであり、その描写だけで十二分に満足できます。また夏を舞台にした物語だけあって空戦時における空と海と雲の描写も上手く、青と白のコントラストがまざまざと脳内にイメージとして沸き上がってくる描写は素晴らしいの一言。

そして、この物語をさらに素晴らしくしている要因の一つはやはり身分違いの恋、次期王妃のファナと、飛空士のシャルルの二人が織りなすラブロマンスであることは疑いようがありません。

次期王妃となる身分だけあって自分の心を殺し人形のように生活してきたファナが、シャルルと共に飛行機に乗り、5日間の旅路を過ごす中で本来の自分を取り戻していく過程にも心温まります。そしてそんな二人が5日間共にする中で互いに惹かれあっていくのも当然のことではあるのです。

しかし、そこは身分の違う二人。いくらこの旅路の間は身分の違いも感じないような関係になろうとも、どんなにお互いのことを想い合おうとも、この任務が終わればその関係も終わってしまう。二人でどこか遠い地にこのまま飛び立てて行ければと夢想するその心情も叶わぬ夢であり、これがまた切ない。旅路の終わりが迫るにつれ、ラストが迫るにつれ、近づいてくる二人の別れに何とも心を締め付けられるのです。

そしてこの二人の結末がどうなるのかと先が気になって気になってむさぼるように読み進めていく自分。そして、最後に待っていたのはそんな自分の期待を裏切らぬ素晴らしきラストシーンでありました。

目を閉じればイメージとして沸き上がってくるサンタ・クルスのダンス。青い空を背景に金色に輝くサンタ・クルスとそれを眺めるファナ。ああ、この胸を締め付けられる甘く切ない感情。ファナとシャルルの二人の心はこの瞬間、確実に一つになっていた。しかし、それは初恋が叶った瞬間でもあり、そして二人の別れの時、そう初恋が終わる時でもあったのです。この甘酸っぱくも切ない初恋の終わりが描かれるためにこの物語はあったに違いないと。

他にも素晴らしいシーンがたくさんあったこの物語ですが、このラストシーンが自分の心に深く深く印象深く突き刺さりました。しかし、それは決して不快なモノでなく自分の心を震えさせてくれる素晴らしいモノでありました。

ああ、返す返すも素晴らしい物語でした。2008年はこの作品を語ることなくラノベを語ることは出来ないといわれるくらいの作品ではあるでしょう。最近、各所で話題に上り始めており気になって購入したのですが、もうほんっとうに良かった。素晴らしかった! 漫画ならば表紙買いもする方ですが、ラノベはなかなか自分から開拓していかない分野ですし、人のお薦めを参考に買うことも多いのですがお勧めにしたがって買って良かったと。なので俺も声を大にして言いすます、超オススメであると。絶対に読んで欲しい一作ですね。


ひと夏の恋と空戦の物語「とある飛空士への追憶」(フラン☆Skin)

犬村小六「とある飛空士への追憶」感想(缶の可換環館 おかわり)

この記事へのコメント

hyper
2008年03月10日 09:32
ここの感想を見て購入しました。
すばらしい本と引き合わせてくれてありがとうございます。
ななしのごんべえ
2009年05月05日 23:07
宇宙GメンEX内でとある飛空士への追憶のラジオドラマが
始まるみたいですね、明後日から。
2009年05月06日 15:52
ラジオドラマとはこれまた予想外の所をついてきますね。
声優が誰になるのかはちょっと気になります。

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