忘れません、この素晴らしき“文学少女”の物語を

画像画像画像画像
画像画像画像画像

“文学少女”シリーズ 野村美月 ファミ通文庫

2008年版「このライトノベルがすごい」で『とらドラ』や『狼と香辛料』よりも上位の3位につけたこの“文学少女”シリーズ。ラノベ好きの人には今更言うまでもない人気作なのですが、普段ラノベを読まない層に対する知名度は結構低いのではないでしょうか。最近になってようやく漫画化されましたが、その他のメディア展開が少なくて、他の人気作に比べると露出度合いが圧倒的に低いのですよね。

ただ、この作品の面白さは3位という結果が示すとおりに誰もが認める素晴らしさを持っているのは間違いありません。そして、完結巻である8巻目まで読み終えた自分もまさにこう思うのです。この素晴らしき傑作に出会えた喜びをありがとうと!

いやもう、ホントに素晴らしかったのですよ、この作品は。ラストの3冊を先週の鉄旅行中にまとめて読んだのですが、ラストシーンを読む自分は列車の中だろうとかまわずに涙を流しつつ心震えさせておりました。ラスト3冊はとにかく先が気になって早く読み進めたいという気持ちを強く持つ一方で、この物語が完結してしまう寂しさからこれ以上先に読み進めたくないという矛盾する感情のせめぎ合いを味合わされました。流れるような美しい文章の波に身を任せる心地よさに浸りつつ、一言一句をかみ締めるように愛おしく咀嚼しつつ読み進めました。そうして迎えたラストシーンの美しさにはひたすらに感動。あー、もうー、ホントに最高でしたよ。


物語は文芸部に所属する主人公の心葉と、一学年年上の遠子先輩の二人をメインに進められていきます。遠子先輩は表紙絵全てに登場しておりますが、セーラー服姿で片手には文学作品、腰までかかるほど長い三つ編みをしたご覧の通りの“文学少女”です。この“文学少女”である遠子先輩の主食はもちろん文学作品。しかし、ここでいう主食とは読み物としての主食ではなく、文字通りに食べるものとしての主食なのです。物語を愛するがあまりに本を食べるとかではなく、ただ純粋にご飯を食べる代わりに本を食べるのが遠子先輩なのです。

しかし、この本を食べるという設定は最初のうちは深く突っ込まれることはなく、それが遠子先輩の特徴の一つというか、チャームポイントぐらいの勢いで話が進められていきます。読んでる自分もそのうちに、本を食べる遠子先輩が普通に思えてきて「まっ、いっか」くらいの感覚になっていくのも不思議なところです。

そして本を主食とする遠子先輩は、食べた本の内容を現実の食べ物の感想を言うがごとく語ってくれるのですが、それがまた作品の特徴を見事に食べ物に喩えており、上手いんですよね。遠子先輩のその作品評を聞いているだけで、普段文学作品とは縁遠い自分でもなんだか親しみを覚えていくのもなんとも気持ちいいのです。

また、この物語は1巻ごとに常にストーリーの中核となる文学作品が登場します。1巻目では太宰治の『人間失格』、2巻目では『嵐が丘』。他にも『オペラ座の怪人』や『銀河鉄道の夜』など過去に一度くらいは読んだりタイトルくらいには耳にしたことのある名作が作中に登場します。

これらの元ネタとなる文学作品のストーリー展開と、“文学少女”シリーズに登場する登場人物達の物語がオーバーラップしていき、新たな物語を生み出していくのがこのシリーズの面白さの一つでもあるのですよね。時にそれは複雑になっていき、元ネタの文学作品のことを語っているのか、登場人物の心情を語っているのか、はたまた元ネタの文学作品の作者の心情を語っているのか分からなくなっていく場合があります。複雑に絡み合う展開と登場人物達が内面に深く抱える問題とが渾然一体となって謎が謎を呼んでいくのですが、それが複雑になればなるほどその内容を読み解きたいという欲求も増していくのです。その展開の行き着く先にある答えを求めて読者である自分たちは読む手を休めることが出来ないのです。

このシリーズの面白さの一つに、推理小説を読んでるかのような感覚にとらわれる部分があるのですが、複雑に絡み合う展開を読み解きたい、紐解きたいという感覚が沸々と湧いてくるのですよ。そしてその欲求に見事に応えてくれるのが“文学少女”である遠子先輩なのです。物語の全貌を解説するでもなく推理するでもなく“想像”してくれる遠子先輩。語り部として遠子先輩の口から紡ぎ出されるお話は物語のラストをいつも盛り上げてくれます。

あと複雑な物語構成が故に、誤読を誘うトラップが多くて何度も引っかかってしまいました。

あ、これ以降、ネタバレありますんで、注意してください。

特にラストの3冊を読んでいてミスリードさせられたのは、遠子先輩の存在について。消えてしまうだとか、本来存在していないだとか、思わせぶりに匂わせる表現ばかりが飛び交っているので、遠子先輩という存在自体が、例えば心葉が描いた物語の登場人物だとか、空想や夢の世界の人物なんじゃないかとビクビクしておりました。こんな8冊近く引っ張って最後が夢オチじゃ洒落にならないっすよー!

でもまぁ、それは全くの杞憂というか、ミスリードでしかなくて一安心しましたが。本を食べる遠子先輩という設定自体に深い追及の手を入れずにさらっと流してくれたのは良かったかも。それよりも遠子先輩の生い立ちだとか家族だとか内面の物語を深く追ってくれたのは嬉しかったです。

あと、この物語最大にして最高の罠、というかミスリードは6冊目の水妖のエピローグの記述でしょう。あれはもう、罠以外の何物でもない! 裏切ったなっ、読者である僕の気持ちを裏切ったな!! アレを読んでしまうと麻貴先輩が結婚する相手は流人君としか思えませんし、なにより心葉とくっつくのが琴吹さん以外に思えないじゃないですか!!! いや、それはそれで素晴らしい未来ですし、オレの頬を際限なくニヤリングさせる展開ではあるのですが。

神に臨む作家の上下巻を読んでいる間中の自分の大前提は「なんだかんだで心葉は琴吹さんとくっつく」でしたし、心葉と遠子先輩はどのような美しい別れをしてラストを迎えるのかという事を想像しながら読んでいたので、ラストを読んでこれがまさに読者を裏切る作家というヤツなのかと存分に思い知らされました。でも、自分にとってみればあの展開はうれしい誤算でもあり、想像していなかった分の衝撃というか喜びというか感動は並々ならぬ物があったのは確かですが。

普段ラノベを読む時って、一番最初に挿し絵すべてを見てから読み始める方なんですが、この神に臨む作家の下巻については全く挿し絵を見ずに読み始めました。なので、ラストシーンのあとに来るあの挿し絵は、ラストシーンを読んだあとにはじめて見たのですが、これまたもう素晴らしくて素晴らしくて、より感動も高まりましたよ。

挿し絵といえば、イラスト担当の竹岡美穂さんの絵も素晴らしかったです。“文学少女”である遠子先輩の古式ゆかしい外見と、それとは相反する天然で茶目っ気と愛嬌ある性格のキャラを見事にとらえて描かれていたなぁと。1冊目の表紙絵になっている、椅子の上で体育座りしながら片手で本を読む遠子先輩は、かなり印象深いですしね。

しかし、これまでダラダラ感想書いてきてひたすらに遠子先輩の事ばかり書いてきた気もしますが、遠子先輩のことは好きです。そしてそれと同じくらいに琴吹さんの事も大好きなんです。当たり前じゃないですか。あんな素晴らしい極上のツンデレっ娘を見逃すはずないじゃないですかっ!

1巻でのわずかな登場シーンだけでも抑えきれないツンデレ臭立ちこめるそのキャラクターに一発で堕ちたものですが、そのツンデレっぷりを遺憾なく発揮した4巻目での琴吹さんはそれはもう素晴らしかった。琴吹さんが登場するだけでオレの頬のニヤリングがヤバイことになるのは自然の道理なのですが、4冊目なんかは自然法則を無視するくらいの勢いでオレの頬がニヤケ上がっており大層ヤバイ事になってました。5巻目以降、彼氏彼女の関係になってさえも尚、つっけんどんな態度でいる琴吹さんを見て「あんたこそツンデレっ娘の鏡やでー!」と一人叫んだのも懐かしい想い出です。

しかし、そんな魅力的な琴吹さんも、結局は遠子姉には敵わなかった訳で。なんというか、メインヒロインの格としてどうにも太刀打ちできなかったんでしょうな。なんというか、神に臨む作家下巻を読んでる間中、ひたすらに思ったことであり、エロゲ脳を持つ全ての男子が思ったことなんでしょうが、これがエロゲであるならば間違いなくここでセーブして琴吹さんルートに進むのにっ、と何度思ったことか。まぁ、それは本編では叶わぬ夢なので、“エロゲ少年”であるDAIさんは琴吹さんルートを“想像”することで満足する事といたします。

ということで、ダラダラ書いてきて、書こうと思えばまだどれだけでも書けそうなほどに好きなこの“文学少女”シリーズですが、間違いなく言えるのは自信をもってオススメ出来る傑作であるということですよ。今年はこの“文学少女”シリーズと『とある飛空士への追憶』がオレ内部2強ラノベです。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 31

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い 面白い 面白い
ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス
かわいい

この記事へのコメント

sh
2008年09月14日 01:01
どっちとくっつくかは、結構なネタバレなので言わないでよ。
2008年09月14日 10:48
んー、ちょっと迂闊でしたかね。申し訳ありません。ネタバレ注意はいれておきましたので。
ハトール
2008年09月15日 09:26
はじめまして
文学少女シリーズは自分も大好きで
最終上下巻は、確かに続きが読みたい気持ちと、完結してしまう寂しい気持ちとのせめぎ合いでした。

6巻のラストの描写の後日談の真相には確かにやられた!
って感じです。

本編は終わりましたが、まだまだ短編に期待です
siore
2008年09月15日 21:42
とある~と文学少女シリーズは確かに面白いですね~
ここでオススメされてる作品は逐一チェックしてますが
かなりキました。

せっかくなのでこちらからもオススメを一つ。
[さよならピアノソナタ:杉井光]
電撃のシリーズ物(未完)です。

ラブコメ大好きなDAIさんなら絶対気に入ってくれると思います。
是非是非。
2008年09月16日 23:08
ハトールさん

本編は完結しましたが、まだ短編を読めるというこの幸せ。
出来れば琴吹さんルートの別EDを見てみたいという気もしますが、
まぁ無理なんでしょうけど。


sioreさん

さよならピアノソナタはタイトルは聞いたことありますねぇ。
ラブコメと言われては興味が湧いてきますが。
とりあえず、今は化物語を読み始めているので、そこら辺を片づけたらですかね。
全力OR文学少年
2008年10月03日 00:38
自分も“文学少女”は全部よんでまーす。二話と八話は泣けました。特に八話目の琴吹さんが泣いてるシーンは一番泣けました。(実体験があったわけではありません。)皆はどこが泣けましたかぁ?
2008年10月04日 17:39
泣けると言えば、ラストシーンで感動した方なのですが、
琴吹さんの切ない境遇を思うと何とも胸締め付けられるのは
確かですよねぇ。
riru
2008年11月29日 15:25
はじめまして。
文学少女全部読みました。わたしの好きなのは6冊目です!ゆりと秋良の恋がとても切なくて感動しました。最後の3巻は遠子先輩達には幸せになってほしいと思って読んでました。
2008年11月30日 21:29
6冊目は番外編ですが、遠子先輩好きの自分としても好きな内容でしたよ。6冊目だけに限りませんがメインキャラ以外の物語もしっかりと読み応えあるのはいいですよね。

この記事へのトラックバック