空戦シーンの盛り上がりに比例して面白くなるこの物語、『とある飛空士への恋歌』3巻

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『とある飛空士への恋歌』3巻 犬村小六 ガガガ文庫

作者もコメントしてますが、今巻はあとがきがないのであとがきから読む人は注意が必要。そして、これから書く感想もネタバレを含んでいるので注意が必要です。

オビでもデカデカと書いてありますが、『とある飛空士への追憶』の映画化がアナウンスされましたね。一冊で完結しているこの物語はまさに映画にこそふさわしいでしょうし、あの感動を再び、しかも映像として味わえるのだからこんなに嬉しいことはないです。今後の続報と共に映画の完成が今から待ち遠しいですよ。

さて、そんな『とある飛空士への追憶』といえば、やはり「ひと夏の恋と空戦の物語」というキャッチフレーズ。甘く切ない恋物語とそれを彩る夏の空と海を舞台にした空戦シーン。そして続編にあたる『とある飛空士への恋歌』にもそういった要素を期待してしまうのは当然の事ではあるのですが、ここまでの2巻を読んでみるとどうにも物足りない部分を感じてしまうのです。学園ラブコメの気配も漂わせており、それはそれで良いんだけど、僕らがこの続編に期待しているのはやはり違うんですよ。

ラブロマンスという点においては、1巻ラストで見せてくれた主人公とヒロインの出会いシーンの印象深さもあり満足できる部分もあります。しかし、空戦という部分に限ってみればここまでの中で満足できる部分はありませんでした。そこにきてこの3巻目です。遂に物語も大きく動き始めて、平和な日常が一変。戦いが始まっていくのですが、 敵との初めての邂逅における空戦がこの上ない盛り上がりを見せるのです。

学徒までをも動員した哨戒任務。その任務に就く飛空科の学生達。あくまで後方支援の哨戒任務ではあったものの、チハルとミツオのペアが敵艦隊を偶然にも発見してしまうのです。これまで印象の薄かったチハルとミツオのペアがこの3巻になると妙にクローズアップされており、「オレ、この戦争が終わったら結婚するんだ」的な死亡フラグバリバリの嫌な部分しか想起させない展開をみせてきます。

そしてその嫌な予想が現実のモノとなるベタで王道な展開。愛する人を守りたい、愛する土地を守りたいという想いを胸に戦いの場へと赴くその姿。その全てがベタな展開であるはずなのにオレの心を震わせて止まないのです。目頭が熱くなり熱い魂の固まりが胸の奥からこみ上げてくるこの感情。自身を犠牲にして、戦局が味方の有利になるようにと懸命に飛び続けるその姿。まさに散華と呼ぶにふさわしい散り様。キャラの心理描写と相まった空戦描写の見事さによって否応なく盛り上がりを見せるのです。自分の頭の中で立体的に浮かび上がってくる空戦シーン。まざまざとその情景を思い浮かべることの出来る描写力。手に汗握りその世界へ没頭させるだけの力を持つ物語。これこそが、このシリーズに求めていた空戦なんですよ!

またこれまでの日常描写も、平和な日常があっという間に崩れ去るという戦争の恐怖を演出するためとしては非常に有効であったとは思います。3巻の最初の方を読んでる限りは、今巻もまた学園ラブコメで終わるのかなと思っていたところに、予期せぬタイミングで後ろからハンマーで殴られたような衝撃はありました。平和な日常が一変し、それがもう戻ってこない幸せな時であったことを後から思い知らされるのです。

しかし、これまでの話を思い返してみると、この3巻は起承転結の転の部分なのかもしれませんね。物語の導入である1巻と、それを受けた2巻。そして物語が大きく動き始めた3巻。そうだとすると、次巻にて物語は結末へ向け動き出すのか、はたまた我々の予想を大きく覆す展開が待ち受けており、壮大な物語へと発展していくのか。この巻ラストで出てきた海猫やら手紙の送り主であるやらがこれまた衝撃の事実で、次巻以降への引きもバッチリ。追憶の世界とどのようにリンクさせていくのかという点においても興味は尽きませんよ。

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