報われぬ片思いキャラ市場に新キャラ参戦、『“文学少女”見習いの、初戀。』

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『“文学少女”見習いの、初戀。』 野村美月 ファミ通文庫

本編が完結し、あとは短編集がちょこちょこと発売されていくだけかと思っていた“文学少女”シリーズにまさかの外伝登場。遠子先輩が卒業し、心葉が3年生へと進級した学校を舞台に繰り広げられる物語。そしてタイトルにあるとおり、“文学少女”見習いたる新入生の菜乃が新キャラとして加わり、文芸部の新入部員として遠子先輩なきあとの文芸部を彩っていくわけです。

しかし、この『“文学少女”見習いの、初戀。』というタイトル、なんという直球どストレート。そうなのです、この外伝は“文学少女”見習いである菜乃の初恋の物語なのです。そして遠子先輩なきこの文芸部において恋をする相手は唯一人、そう心葉に片思いをする後輩という王道ストーリーが展開される訳なのです。

しかし、本編ラストまで読んだ読者なら分かるはずですが、菜乃の初恋は絶対に実るものでないことは最初から明らか。叶わぬ恋、報われぬ恋だと最初から読者に提示した状態で始まるこのストーリー。しかも、“文学少女”シリーズにおける報われない片思いキャラ市場は琴吹さんの独占状態であり、個人的にも琴吹さんがいてくれれば切ない片思いで甘酸っぱい気分に浸るのには充分だと思っていたのですが、ところがどっこい、この菜乃という新キャラも素晴らしい片思いっぷりを見せつけてくれるわけです。

遠子先輩と心葉の別れのシーンに偶然出くわした菜乃。泣きながら遠子先輩の名前を呼び続ける心葉に胸を打たれた菜乃の初恋はここから始まるわけですが、それは遠子先輩を強く想う心葉の気持ちに、恋するという気持ちそのものに心を打たれたとも取れるわけです。それはまさに「恋に恋する」状態だったのかもしれないし、恋愛への憧れが含まれていたのかもしれません。

しかし、高校に入学し心葉に再会してからの菜乃の恋心の加速は初恋の甘酸っぱさに満ちあふれており、オレの心を激しく揺さぶるのです。好きな人の事を想って胸を焦がし、好きな人の笑顔に触れ胸をときめかせ、好きな人に想い人がいることを知って胸を切なくする、そんな恋心の数々にどうしようもなくやられてしまうわけです。

そして、琴吹さんとはまた違った報われない片思いキャラとしての魅力を発揮するのは、菜乃というキャラが一度や二度の挫折ではめげない明るさを持ったキャラだということ。心葉に振られるのは最初から分かっていたことなのですが、そこからの反逆と、心葉につれなくされるようになってからの奮闘ぶりは琴吹さんとはまた違った魅力を感じるのです。

そして、好意を惜しげもなくさらし出す菜乃と、つれなく相手する心葉という構図が、遠子先輩なき放課後の文芸部の姿として定着していくのにワクワクした感情を抱いてしまうのもまた事実。琴吹さんに対しては決して見せないようなツッケンドンな心葉の態度も、素の自分を出せる相手という意味では、遠子先輩と同格となれたとも言える訳で。この恋の行方は前途多難ですが、どのような形に行き着くのかは非常に楽しみな所です。

しかし、序盤ですっかり菜乃の初恋部分で心奪われた感があっただけに、本編で二人の関係についての進展が全くなくなってしまったのが残念なところ。本編はいつも通りの“文学少女”シリーズの文法にのっとった展開で、幾重にも張り巡らされた人間関係とミスリードの罠。そんな展開を紐解いていく楽しみに満ちており読み応えも充分でした。ただ、序盤で菜乃に感情移入を強くしていた分、「曾根崎心中」の話に物足りなさを感じてしまったのも正直なところ。

しかも最後の最後に、これまた衝撃的な心葉のセリフや、美羽視点での菜乃批評など、今後の展開を楽しみにさせるモノが用意されているのだから、これがまた憎らしいやら。間違いなく、次巻への期待が高まった次第です。

しかし、次は外伝の続編ではなく、短編集とな! まぁ、それはそれで今回いいところのなかった琴吹さんの話も出てきそうですし、楽しみに待ちたいところです。

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